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人工知能(AI)が医療を変える!信頼されるAIの未来とは?

人工知能(AI)が医療を変える!信頼されるAIの未来とは?
人工知能(AI)は、今や私たちの生活に欠かせない存在となっています。特に、「深層学習(Deep Learning)」という技術が登場してからは、さまざまな分野でAIの活用が進んでいます。医療もその一つです。例えば、病気の診断や治療、薬の開発、さらには遺伝情報を活用した医療など、多くの場面でAIが使われ始めています。この記事では、特に「乳がん診断」におけるAIの活躍と将来の可能性についてお話しします。

AIで乳がんを見つける確率を上げる!でも、それだけでは不十分?

乳がんの診断では、画像データをもとに病変を見つけ出す「AI-CAD(コンピュータ支援診断)」という技術が注目されています。この技術は、AIが医師の診断をサポートするもので、病気を見つけたり、悪性を判別するために役立っています。
ただし、これまでのルールでは、AIが出した診断結果はあくまで「参考情報」として扱われ、最終的な判断は必ず医師が行うことが求められてきました。これは、診断の責任が医師にあるためです。AIはどれだけ優秀でも、医師に信頼してもらえなければ意味がありませんでした。

 

 

信頼されるAIとは?「そっと背中を押す」AIの役割

AIが医師に信頼されるためには、単に正確な結果を出すだけではいけません。「医師の判断を助けたり、再確認を促したりする」ような役割も必要です。これをわかりやすく説明するために、自動運転の例を考えてみましょう。
例えば、雪の日に自動運転を使うとき、運転者と自動運転の能力を良く知っているAIが「大雪だから自動運転はやめたほうがいい」とか、「軽く雪が降る程度なら問題ないよ」とアドバイスをくれると自動運転を使った運転への信頼が高まります。この仕組みは「信頼較正AI」と呼ばれています。
同じように、乳がん診断でも乳がんを見つけるAIとは別に「これAIは得意じゃないから自分でしっかり見て」とか「これAIは自信があると思うよ」と医師の経験に基づいて最適な判断をサポートしてくれる信頼較正AI求められています。このように「人の心をそっと押す」AIが、これからの医療において重要な役割を果たすのです。

 

 

AIの新たな挑戦:未来を予測する

さらに、AIは単に診断をサポートするだけでなく、「将来のリスクを予測する」という新しい分野にも挑戦しています。例えば、乳がんになるリスクを画像データから予測できるAIが開発されています。これによって、まだ病気が見つかる前の段階でケアを始めたり、リスクが高い人に対してより精密な検査(MRIなど)を行ったりすることが可能になります。
このようなリスク予測技術は、診断を超えて「予防医療」や「個別化医療」の実現につながります。AIが患者一人ひとりのリスクを見極めることで、早期発見だけでなく、適切な治療や予防を提案できるようになるのです。

 

 

AIが魅せる乳がん治療

乳がんの治療は、タイプにあった方法を選択することが重要です。そのタイプを知るには、乳がんの一部を切り出して遺伝子情報やタンパク情報などを調べる必要があります。しかし、この方法は太い針やメスを使うため、痛みが伴います。もし、画像を撮るだけでそれが分かればよいと思いませんか?そもそも画像に遺伝子情報やタンパク情報などが入っているわけがないのですが、AIなら人間の目とは違う視点で見つけてくれる可能性があるのです。このように画像と他分野を融合させるオミックスと呼ばれる解析にAIが用いられており、放射線治療や抗がん剤の治療効果を最大限に引き出すことが期待されています。

 

 

AIと医師の協力で医療の未来を切り開く

これからの医療では、AIは単なる「道具」ではなく、医師と協力しながら診断や治療を進めるパートナーのような存在になっていくでしょう。特に、「信頼されるAI」「未来を予測するAI」「治療に役立つAI」のような技術が進化することで、私たちの健康と命を守る仕組みが大きく変わる可能性があります。
AIが医師を支え、医師がAIを信頼する――そんな未来の医療が、もうすぐそこまで来ているのです。

 

【参考・引用元】

篠原範充:乳房画像診断におけるAIの現状と期待 .インナービジョン,38(8),25-27,2023
Kazuo Okamura, Seiji Yamada:Empirical Evaluations of Framework for Adaptive Trust Calibration in Human-AI Cooperation. IEEE Access, 1,2020.
Petersen K, Neilsen M, Diao P, et. al.:Breast tissue segmentation and mammographic risk scoring using deep learning. IWDM 2014, 8539: 88-94, 2014.

 

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この記事を書いた人

  • 篠原 範充
    篠原 範充 しのはら のりみつ
    所属:
    保健科学部 放射線技術学科
    学位:
    博士(工学)
    専門分野:
    画像工学、画像情報

    工学と放射線医学・外科学の懸け橋となる研究を行っています。主な研究課題は、画像診断を支援するコンピュータ支援診断システム、AI、画像処理、医用画像の画像評価および装置の開発など多岐にわたり、乳がんに関しては、研究全国各地で開催されている医師、放射線技師、検査技師の講習会や講演会などで医療職の教育に従事しています。

    教員詳細